帝王切開分娩を安全に予防するためにできること
アメリカの帝王切開分娩の状況をちょっとマジメに書きます。(産科勤務の記憶がまだフレッシュなうちに😉)
2019年の全体的な帝王切開分娩率は31.7%、低リスク層では25.6%です(米国疫病予防管理センター(CDC)調べ)。
こちらのサイトにあるグラフで分かるように1996年から帝王切開分娩率が急激に上昇しました。
この傾向を危惧した米国産婦人科学会(ACOG)と米国周産期学会(MFM)が、2014年に発表したコンセンサス(Safe Prevention of the Primary Cesarean Delivery)は、大学病院で助産研修を始める前の必読文献でした。
これは医療者側が不必要な帝王切開分娩を防ぐために気を付けなければならない内容ではありますが、
ケアを受ける側も知っておくと、医療介入の理由が分かりやすくなったり、Shared Decision Making(患者と医療者による共同意思決定*)に役立つかもしれません。
(*医学的エビデンスと患者の価値観や意向を考慮し、医療者と患者が協働で最善のケアを決定するプロセス)
これ、全部読もうとすると長いです💦
以下は、私が産科でコレは重要と気を付けていたポイント😊です。じっくり読みたい方は、こちらのリンク先からどうぞ。
この投稿は、ほぼ Table 3 の要訳ですが、私の補足・注釈も入っています。
まず、帝王切開分娩の理由として一番多いのが「分娩停止」(34%)。これを安全に予防するためにできることは・・・
■ お産第1期(陣痛の始まり~子宮口開大10センチまで)
- お産初期(子宮口開大6センチ未満)の「長期化」は帝王切開分娩の理由とすべきではない。つまり、お産初期が長引いても、分娩停止とせず、帝王切開分娩を勧めるべきではない、ということです。
- お産活動期(子宮口開大6センチ以上)で分娩停止と判断するためには、次のどちらかの条件が必要:
- 子宮口開大6センチ以上 + 破水している + 充分な強さ*の陣痛が4時間続いているのに関わらずお産が進まない(*子宮内に細い管状のセンサーを入れて計測し、モンテビデオ単位200MVU以上であれば充分な強さと見なす。)(この3つの条件が全て揃っている)
- 子宮口開大6センチ以上 + 破水している + 少なくとも6時間オキシトシン投与をしているのに関わらずお産が進まない(この3つの条件が揃っている)
■ お産第2期 (いきみ始め~赤ちゃん誕生まで)
- 他に問題がなければ、分娩停止と判断する前に、少なくとも以下のいきみ時間を与える(待つ)。
- 二人目以降の出産 + 麻酔なし・・・2時間
- 初産 + 麻酔なし・・・3時間
- 二人目以降の出産 + 麻酔あり・・・3時間
- 初産 + 麻酔あり・・・4時間
- 回旋異常の見極めと修正の試みを行う。(*赤ちゃんは回りながら降りてきますが、それがうまく行っていない場合、産科医や助産師が手で赤ちゃんの頭を動かす方法。)
- 帝王切開分娩をする前に補助経腟分娩を試みる(鉗子分娩、吸引分娩)。
次に、帝王切開分娩で2番目に多い理由が「胎児の心拍パターン異常」(23%)です 。これを安全に予防するためにできることは・・・
- 心拍にある特定の心拍減速パターンが繰り返し見られる場合、(管を子宮に差し入れて)羊膜内に水分を入れる。
- 心拍パターン異常が見られる場合、内診の時に赤ちゃんの頭を(指でマッサージのように)刺激して健康状態を見る。
分娩誘発は・・・
- 41週以前は、通常、医療的な必要性がある場合に行う。(*ただし、このコンセンサス発表から4年後、2018年に発表された研究「Arrive Trial」で、「39週の分娩誘発は初産で低リスクの人の帝王切開分娩率を低くする」という結果が出て、助産師と産科医の間で議論が生じている状況があり・・・また書ければとは思っています。)
- 子宮口の「準備」がまだできていない場合、「準備」を促す方法をまず使う。(*内診で、子宮口の向き、長さ、開き具合、柔らかさなどにより判断します。病院で「準備」を促す方法には、フォーリー・バルーン(管を子宮口上部でふくらます方法)、ミゾプロストル(ピルもしくは経腟薬)があります。)
- 分娩誘発を「不成功」と判断する前に、親子ともに問題がなければ、お産初期であれば長めの時間(24時間まで、あるいはそれ以上)を与え、破水後のオキシトシンの投与時間を少なくとも12~18時間与える。つまり、我慢強く待ちましょう、ということです。
胎位異常(つまり逆子)は帝王切開分娩の理由の3番目(17%)ですが・・・
- 36週以降に胎位異常を見極め、外回転術(赤ちゃんの体をお腹の上から手で回転させる方法)を提案する。*逆子の状態によっては、経腟分娩ができるスキルのある産科医がいます。
巨大児の疑いがある場合は・・・
- 出産時のトラウマのリスクを避けるための帝王切開分娩は、糖尿病のない人で5000グラム以上、糖尿病のある人で4500グラム以上の人に限るべき。しかし、この体重は、あくまで推定体重であり、特に妊娠後期の推定体重は不正確であることを患者に伝えるべき。
妊娠中の体重変化は・・・
- 過度の体重増加を避けるように教育する(IOMのガイドライン)
双子の妊娠は・・・
- 二人ともの頭が下向き、もしくは一人目の頭が下向きで二人目が逆子の場合は、経腟分娩を試みるよう助言すべき。*これもスキルのある産科医がいます。
それから、このコンセンサス中に、継続的なお産サポート(continuous labor support)は帝王切開分娩率を低くするとも書かれています。
ここからは、私の意見ですが・・・
もちろん、パートナーがその継続的な役割を果たすことができますが、ドゥーラのようにお産サポートに慣れている人に寄り添ってもらうと、
代弁者となったり、分かりにくい部分を説明してくれたりと、医療者との懸け橋にもなってくれるので安心できると思います。
最後に・・・
もちろん、帝王切開分娩を避けられれば良いですが、帝王切開分娩は必要な人にとっては命を守ってくれる技術です。
帝王切開分娩も立派なお産であることを忘れないで頂けたらと思います。
長い投稿を読んでいただいてありがとうございます。
帝王切開分娩への想い・お考え・体験談・お住まいの地域での状況など、よかったらコメントでお聞かせ下さいね。
執筆:ウィコラ創設者・代表 小谷祥子
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